空き家を相続したら最初にすること
親や親族が亡くなって空き家を相続した。そんなとき、何から手を付ければよいのか分からないまま数週間が過ぎた、という方は少なくありません。総務省の令和5年住宅・土地統計調査(確報)によると、全国の空き家は900万2千戸に達し、空き家率は13.8%と過去最高を記録しました。空き家の相続手続きには「3ヶ月以内」「10ヶ月以内」「3年以内」といった期限が複数あり、対応を先送りにすると選択肢が減ったり、過料(罰金に類する制裁金)が科されたりするリスクがあります。この記事では、空き家を相続した直後にやるべき手続きの全体像を期限順に整理し、相続登記の義務化、相続放棄の判断、管理責任、固定資産税、活用・売却の考え方まで一本で解説します。
空き家の相続で期限がある手続きの一覧
相続発生後に対応すべき手続きを、期限の早い順に並べました。この表を手元に置いて、どこまで進んだかを確認しながら読み進めてください。
| 期限 | 手続き | 届出先・相手 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届の提出 | 市区町村役場 | 届出がないと火葬許可が出ない |
| 14日以内 | 年金受給権者死亡届 | 年金事務所 | 届出遅延で過払い年金の返還を求められる |
| 3ヶ月以内 | 相続放棄・限定承認の申述 | 家庭裁判所 | 期限超過で単純承認とみなされる |
| 4ヶ月以内 | 準確定申告(被相続人の所得税) | 税務署 | 被相続人に確定申告義務があった場合 |
| 10ヶ月以内 | 相続税の申告・納付 | 税務署 | 基礎控除以下なら申告不要 |
| 1年以内 | 遺留分侵害額請求権の時効 | 請求先の相続人 | 遺言で不公平な分割がされた場合 |
| 3年以内 | 相続登記の申請 | 法務局 | 2024年4月義務化。未登記は10万円以下の過料 |
| 3年10ヶ月以内 | 取得費加算の特例の適用 | 税務署(確定申告時) | 相続税を払った場合、譲渡所得から控除可能 |
上の表のうち、空き家の相続に特に影響が大きいのは「3ヶ月以内の相続放棄」「10ヶ月以内の相続税申告」「3年以内の相続登記」の3つです。以下、時系列に沿って各手続きを掘り下げます。
相続発生直後にやること(1〜3ヶ月目)
遺言書の有無を確認する
最初に確認するのは遺言書の有無です。自筆証書遺言は家庭裁判所での検認が必要で、検認前に開封すると5万円以下の過料の対象になります。法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用していた場合は検認不要で、保管の有無は法務局に照会できます。公正証書遺言であれば公証役場に原本が保管されており、相続人が検索を依頼することが可能です。
相続人の確定と財産調査
被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得し、法定相続人を特定します。兄弟姉妹の相続では代襲相続が発生しているケースもあるため、戸籍の読み取りは慎重に進める必要があります。
並行して相続財産の調査も進めます。空き家を含む不動産は固定資産税の課税明細書や登記事項証明書(登記簿謄本)で確認し、住宅ローンの残債がないか金融機関に問い合わせましょう。預貯金・有価証券・生命保険のほか、借金や連帯保証の有無も含めてプラスとマイナス両面の財産を洗い出すのが重要です。
空き家の現地確認
空き家が遠方にある場合でも、早い段階で一度は現地を訪問してください。建物の状態(雨漏り、シロアリ被害、不法投棄の有無)を確認し、近隣へ相続があったことを伝えておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。ポストに郵便物がたまっていると空き巣のリスクが高まるため、郵便局への転送届も忘れずに出しておきましょう。
相続放棄の判断(3ヶ月以内)
放棄を検討すべき場面
相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ相続放棄の申述をしなければ、原則として単純承認(すべての財産と負債を引き継ぐ)になります。この3ヶ月を「熟慮期間」と呼びます。
以下に該当する場合は放棄を検討する余地があります。
- 空き家の解体費用や固定資産税が資産価値を上回る見込みがある
- 被相続人に借金やローン残債があり、不動産を含めてもプラスにならない
- 空き家の立地が悪く、売却・活用の見込みがない
ただし、相続放棄は「空き家だけ放棄して預貯金は受け取る」ということができません。プラスの財産とマイナスの財産を差し引きで検討する必要があり、判断が難しい場合は家庭裁判所に熟慮期間の延長を申し立てることも可能です。また、マイナスの財産がプラスの財産の範囲でのみ引き継がれる「限定承認」という方法もあります。
放棄後も残る管理義務(改正民法第940条)
2023年4月施行の改正民法により、相続放棄をした者は放棄時に現に占有している相続財産について、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで「自己の財産と同一の注意」をもって保存する義務を負うことが明確化されました。つまり、実家に住んでいた、あるいは鍵を管理していた場合は、放棄しても建物を適切に管理し続ける責任が残り得ます。放棄すれば完全に手を離せると考えて行動すると、思わぬトラブルに発展する可能性があるため注意してください。
相続税の申告と基礎控除(10ヶ月以内)
相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。ただし、すべての相続に相続税がかかるわけではありません。遺産総額が基礎控除額を下回れば、申告そのものが不要になります。
基礎控除額は以下の式で求めます。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 x 法定相続人の数
法定相続人の数ごとに基礎控除額をまとめると、以下のようになります。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
たとえば配偶者と子2人が相続人(合計3人)なら、基礎控除額は4,800万円です。空き家の不動産評価額、預貯金、有価証券など遺産の合計がこの金額以下であれば、相続税はかかりません。
なお、遺産に占める不動産の割合が高いケースでは、現金が足りず相続税の納付に苦労することがあります。空き家の売却で納税資金を確保するか、延納制度を使うか、早い段階で税理士に相談して方針を立てておくことが重要です。
相続登記の義務化と手続き(3年以内)
2024年4月1日から、不動産の相続登記が義務化されました。相続で不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければ、正当な理由なく怠った場合に10万円以下の過料が科されます。
施行前に発生した相続にも遡及適用されるため、すでに相続が発生していて登記を済ませていない不動産は、2027年3月31日が実質的な期限です。
必要書類と費用
相続登記の申請時には、次の書類を準備します。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 対象不動産の固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書(法定相続分以外で分ける場合)と相続人全員の印鑑証明書
費用は、登録免許税(不動産の固定資産税評価額の0.4%)と司法書士報酬(5万〜10万円が相場)の合計です。評価額1,000万円の空き家なら登録免許税は4万円で、司法書士報酬と合わせて10万〜15万円程度になります。
遺産分割がまとまらないときの対処
相続人間で話がまとまらない場合は「相続人申告登記」という制度を利用できます。これは自分が相続人であることを法務局に申し出る手続きで、これにより過料を一時的に回避できます。ただし、遺産分割が確定した際には改めて正式な相続登記が必要です。分割協議が長期化するようなら、家庭裁判所の遺産分割調停も選択肢に入ります。
空き家の管理責任と固定資産税
相続登記を終えた後も、空き家を保有する限り管理責任と固定資産税の負担が続きます。
建物の管理責任は民法第717条に基づき所有者が負います。空き家の屋根材が飛散して通行人を負傷させた、老朽化した塀が倒壊して隣家を損壊させたといった場合、遠方に住んでいても所有者に損害賠償責任が生じます。
固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に課税されます。土地の上に住宅が建っていると「住宅用地の特例」で固定資産税が最大6分の1、都市計画税が最大3分の1に軽減されるため、「税金が安いうちは壊さず残しておく」と判断しがちです。
ところが、2023年12月施行の改正空家対策特別措置法により「管理不全空家」という区分が新設されました。従来の「特定空家」(倒壊の危険など深刻な状態)に至る前の段階でも、管理不全空家に指定されると住宅用地の特例が解除され、固定資産税が跳ね上がる仕組みです。「まだ建物が残っているから大丈夫」とは言い切れなくなりました。特定空家と管理不全空家の違いについてはこちらの記事で詳しく整理しています。
管理コストの目安として、年1〜2回の草刈り・清掃で5万〜15万円、遠方からの交通費を含めると年間10万〜30万円前後かかるのが一般的です。固定資産税(評価額1,000万円なら年14万円前後)と合わせると、何も収益を生まない空き家に年間25万〜45万円を払い続ける計算になります。
空き家をどうするか — 5つの選択肢
管理コストと税負担を踏まえたうえで、空き家の処分方針を決めます。選択肢は大きく5つに分かれます。
| 選択肢 | 向いているケース | 初期費用の目安 | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| 売却(現況or解体後) | 遠方居住・管理困難・現金化を優先 | 仲介手数料+解体費用(解体時) | 維持費からの解放、現金確保 |
| 賃貸活用(戸建て賃貸) | 駅近・築浅・賃貸需要のあるエリア | リフォーム費50〜300万円 | 家賃収入が管理コストを上回る |
| 解体して土地活用 | 更地のほうが価値が出る立地 | 解体費100〜200万円 + 活用投資 | 駐車場・アパート等で収益化 |
| 自己利用 | UIターン・二拠点生活を検討中 | リフォーム費 | 住居費の削減 |
| 相続土地国庫帰属制度 | 売却も活用もできない土地 | 審査手数料1万4千円 + 負担金20万円 | 管理負担からの完全離脱 |
売却を選ぶ場合、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の3,000万円特別控除」が活用できる可能性があります。昭和56年5月31日以前に建築された空き家を耐震改修または取壊して譲渡し、一定の要件を満たすと、譲渡益から最大3,000万円を控除できる制度です。適用期限は2027年12月31日までの譲渡です。詳しくは空き家の3,000万円特別控除の記事をご確認ください。
賃貸も売却も見込みが立たない場合は、2023年4月に始まった「相続土地国庫帰属制度」も検討に値します。相続した土地を国に引き取ってもらう制度で、審査手数料が1筆あたり1万4,000円、承認後の負担金は原則1筆20万円です。ただし、建物がある土地は対象外のため、事前に解体が必要です。また境界が不明瞭な土地や担保権が設定された土地も申請できません。
活用・売却・解体のどれが最適かは、物件の状態と立地で大きく変わります。一社の提案だけで判断すると選択肢を見落としやすいため、複数の専門業者から提案を取得して比較するのが確実です。
専門家ごとの相談先
空き家の相続は法律・税務・不動産の3つの領域にまたがります。一人の専門家ですべてを解決するのは難しいため、相談先を使い分けてください。
- 司法書士 — 相続登記の申請代理、遺産分割協議書の作成支援、相続人申告登記
- 税理士 — 相続税の申告、譲渡所得税の試算、3,000万円特別控除の適用判断
- 弁護士 — 相続人間の紛争、遺産分割調停、相続放棄の手続き支援
- 不動産会社 — 売却査定、賃貸募集、管理委託
- 自治体の空き家相談窓口 — 空き家バンクの案内、解体補助金、管理支援
相続税の申告期限(10ヶ月)や3,000万円特別控除の適用期限など、時間制約がある手続きが複数存在します。方針が固まっていなくても、まず現状を整理するために動き出すことが、結果的に最も選択肢を広く残す方法です。
よくある質問
相続放棄すれば空き家の管理義務はなくなりますか
なくなるとは限りません。2023年4月施行の改正民法第940条により、放棄時に空き家を現に占有していた場合は保存義務が残ります。相続財産清算人が選任されて引き渡しが完了するまで、建物が周囲に害を及ぼさないよう管理する責任があります。
相続登記の義務化に違反するとどうなりますか
正当な理由なく3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が科されます。登記官が義務違反を把握すると、まず催告が行われ、それでも登記しなかった場合に地方裁判所に通知される流れです。遺産分割がまとまらない場合は「相続人申告登記」を行えば過料は回避できますが、分割確定後に正式な登記が必要です。
空き家の解体費用はどのくらいですか
木造2階建て30坪で100万〜200万円が目安です。アスベスト含有材の有無、前面道路の幅員(重機が入れるか)、浄化槽の有無で変動します。自治体によっては空き家解体の補助金制度を設けており、上限50万〜100万円程度の補助を受けられる場合があります。
相続した空き家を売却したときの税金はいくらですか
譲渡益(売却価格 - 取得費 - 譲渡費用)に対して所得税・住民税がかかります。所有期間5年超の長期譲渡所得の場合、税率は20.315%です。相続で取得した不動産は被相続人の取得時期を引き継ぐため、親が長期間保有していた物件は長期譲渡所得として扱われます。要件を満たせば3,000万円特別控除が適用でき、譲渡益から最大3,000万円を差し引けます。
相続した土地を国に返すことはできますか
2023年4月施行の相続土地国庫帰属制度を利用すれば、一定の要件を満たした土地を国に引き取ってもらえます。審査手数料は1筆あたり1万4,000円、承認後の負担金は原則1筆20万円(10年分の管理費用相当)です。建物がある土地、境界が不明な土地、担保権がついた土地は申請できないなど、要件は厳格に設定されています。
まとめ
空き家を相続したときの手続きは期限順に整理すると見通しが立ちます。相続発生後3ヶ月以内に相続放棄の判断、10ヶ月以内に相続税の申告、3年以内に相続登記の申請が主要なマイルストーンです。登記後も管理責任と固定資産税の負担は続き、管理不全空家に指定されれば税額が大幅に上がるリスクがあります。売却・活用・解体の選択は立地条件と税制の組み合わせで最適解が変わるため、複数の専門業者から提案を取って比較するのが失敗しない進め方です。相続した土地の活用方針が定まらない場合は、相続した土地の活用選択肢もあわせてご覧ください。
あわせて読みたい: 特定空家のリスクと固定資産税への影響、空き家の3,000万円特別控除の要件と期限、空き家バンクの使い方と注意点、リフォーム補助金一覧(2026年版)。空き家に関する記事は空き家トピックページにまとめています。
出典
- 総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報)」(2024年9月30日公表)
- 法務省「相続登記の申請義務化について」(令和6年4月1日施行)
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」(令和5年4月27日施行)
- 国税庁「No.4152 相続税の計算」
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)」
- 民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
- 民法第940条(相続の放棄をした者による管理)